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③近未来小説「円高の頃は、まだ、よかった・・・」その3 [小説]

今日は一日雨模様です。
近未来小説「円高の頃は、まだ、よかった・・・」の続きをお読みください。

最初からお読みになりたい方は、①にお戻りください。

 春休み
「お姉ちゃん、明日は楽しみだね。」
千津子は二段ベッドの上に寝ている姉の杏子に話しかけた。
「そうだね、おばあちゃんちに行くのは、2年ぶりだね。去年は、大震災や放射能騒ぎで行かなかったから。」

昇の実家は、福島県の喜多方市、毎年春休みには実家に行き、喜多方ラーメンを食べてくるのが楽しみだった。
去年の震災のあとは、潤子がナーバスになっていたので、こどもは連れずに昇が一人で行っていた。
昇の父は6年前に他界し、母、のり子一人が大きな家で暮らしている。
のり子の夫隆男は、お酒が大好きで、60歳で定年を迎えた翌年に亡くなった。


 隆男は公務員だったので、退職金はいっぱいもらえたが、年金を自分で使うことなく亡くなってしまった。

のり子の老後は、隆男の年金が入ってくるので心配はない。
それでも、先祖伝来の田んぼや畑を荒らしたくないので、田んぼはJAに委託し作ってもらい、
畑には、季節の野菜を作り、JAの直売所に出したり、近所の人に配り喜んでもらうのを楽しみにしている。
喜多方は観光客が大勢訪れるので、けっこう良く売れた。

「明日は、昇が孫たちを連れてくるんだと。嫁の潤子さんがら電話がきたんだ。」
畑でとれたホウレンソウを届け、お寺の若奥さんにのり子は語った。
「8月には、うちの人の七回忌の法事を予定してんだ、あとで、昇が挨拶にくるからよろしくね。」

「いつもありがとうございます。美味しそうなホウレンソウですね。
去年は出荷制限で食べられなかったけど、今年は安心して頂けるわ。」
のり子は、夫の兄弟5人と神戸に嫁いでいる美和子に声をかけて、菩提寺である慶長寺でお経を読んでもらおうと考えていた。今回の息子たちの帰省はその打ち合わせも兼ねている。

24日朝、昇は潤子の実家まで車をとりに行った。
この辺りで駐車場を借りると田舎で家を一軒借りるくらいかかるが、
一男が経営している駐車場の一角をただで使わせてもらっている。
数年前にハイブリッド車を買ったが、去年ガソリン不足で大騒ぎになった時は本当にこの車のおかげで助かった。
計画停電でシステムトラブルが起きた顧客のところに資材を積んで回れたし、喜多方の実家まで行って、お米や食料、水などをもらってくることができた。
一年前の今頃、福島ではガソリンが手に入らず、給油なしで東京と会津を往復できたのは、まさにハイブリッド車の恩恵であった。
新古車のエスティマハイブリッドを見つけてくれた義兄の慎二には感謝している。

「忘れ物はないか?卒業証書や通知表などおばあちゃんに見せるものは入れたか?」
「通知表を見せるとおばあちゃん、いつもおこずかいくれるから♪」
杏子がいうと、千津子は不満げに
「私も、おこずかいもらえるかな?」
「おこずかいどころか千津子にはランドセルを喜多方のおばあちゃんが買ってくれたみたいだよ。」
「うれしい!ランドセル早くみたいな♪」
潤子は、紙袋に包んだランドセルを千津子に気づかれないように車に積み込んだ。
お金はのり子に出してもらうのだが、ランドセルは潤子が選んだ。
今夜、それをのり子の手から渡してもらう予定である。

首都高4号線から中央環状線を通り、東北道から福島へと向かった。
被災証明をとって無料で走っている人も多いが、世田谷に住んでいる昇は、その恩恵を受けられなかった。しかし、去年の秋からは、白河以北の高速道路は全車無料となり、昇もその恩恵にあずかれた。

つづく・・・

主な登場人物

長谷川 昇(しょう)    昭和47年5月3日生 福島県喜多方市出身

長谷川 潤子(じゅんこ) 昭和48年3月3日東京都世田谷区烏山に生まれる
                二児の母、結婚前は幼稚園で働いていた。
杏子 (きょうこ)      長女、烏山西小学校を卒業し、この春、東光学園中等部に入学する。
千津子(ちずこ)      次女 円蔵寺幼稚園を卒業し、烏山西小学校に入学する。

吉田一男          潤子の父、先祖伝来の畑をアパートや駐車場にして悠悠自適な毎日。
              趣味はゴルフ。
吉田百合子        潤子の母、山登りが好きな元教員。55才までは高校で音楽を教えていた。
              趣味は山登り日本百名山を制覇している。
  
吉田尚子(ひさこ)    潤子の姉、千津子が通っていた円蔵寺幼稚園に勤務。
  
吉田慎二(しんじ)    中古車販売店に勤務。大の車好き。 
  
長谷川のり子       昇の母 夫の隆男が亡くなって喜多方で一人暮らし、
              畑で作った作物を直売所で売っている。

北川美和子        昇の妹、結婚し夫と中学生の息子一人と神戸で暮らしている。
              大の宝塚ファン。

清水泰光(たいこう)   長谷川家の菩提寺である慶長寺の住職。昇の同級生、
              8年前に先代が亡くなるまでは、世田谷の私立高校で教鞭をとっていた。
              ラーメンが大好き。

※ 上記小説はフィクションであり、ここに登場する人物・学校等は架空のものです。
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弁慶

円高傾向が止まりませんが・・・

両方とも、どうなるのでしょう^^

by 弁慶 (2011-08-21 15:56) 

花IKADA

今後が楽しみ~
by 花IKADA (2011-08-21 17:43) 

hanamura

小説の舞台(?)近辺を旅行してきました。楽しみです!
by hanamura (2011-08-21 17:50) 

yakko

こんばんは。小説、楽しみです(^。^)
by yakko (2011-08-21 18:17) 

吉之輔

こんばんは、楽しみにしてます。
by 吉之輔 (2011-08-21 19:04) 

せつこ

遡って①②を読みました。
次も楽しみです。
円高、日銀さんに、なんか手を打ってもらいたいね。
by せつこ (2011-08-21 20:43) 

manamana

実家の方が舞台なので、
親近感をかんじます。
by manamana (2011-08-21 20:53) 

こう

喜多方ラーメンが食べたくなりました。
「阿部食堂」ってまだあるのか気になりました。

15年ほど前に初めて喜多方へ行ったときの事です。
どのラーメン屋さんに入ったら良いのかわからず、直前に亡くなった大学時代の先輩の名前で選んだお店です。
とても美味しかったので、今でも覚えています。
by こう (2011-08-21 22:37) 

ミッチー

この小説先が楽しみです
by ミッチー (2011-08-21 23:09) 

レイリー

続きがとても楽しみです! (^^
しかししても原発、そして極度の円高、どのようになってゆくのか危機的状況に感じます。
せめて原発だけでも終息して欲しいですが、完全に終息するには百年単位でかかってしまうのでしょうね。
by レイリー (2011-08-22 08:47) 

momoe

来年はどの地域の農産物も
出荷停止の憂き目を見ずに済むでしょうか…
若干不安を抱かずにはいられません。
by momoe (2011-08-22 19:13) 

袋田の住職

弁慶 さん マネーゲームで人々をもてあそんでいる人は、
必ずや自分自身もそれによって翻弄されることでしょう。

花IKADA さん だんだん観光小説になってきてしまいました。

hanamura さんの ブログも参考にさせて頂きます。

yakko さん 旅行した気分になれる小説になりそうです。

吉之輔 さん ありがとうございます。

せつこ さん 日銀だけですからね。権限を持っているのは・・・

manamana さん 実家はどちらでしたっけ?

こう さん あべ食堂さんには次記事で登場して頂きました。
変わらぬ味が人気のラーメン店です。

ミッチー さん このブログの読者や親せき筋には、特に喜んでいただける内容です。

レイリー さん 早く収束して頂かないと、会津も当地も安心して暮らしていけません。

momoe さん 土壌汚染や森林の汚染をいかに早急に除去していくかがポイントですね。
by 袋田の住職 (2011-08-22 19:35) 

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